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第7話  

Author: リンフェイ
結城理仁はロールスロイスに乗ると、低い声で指示を出した。「俺が新しく買ったあのホンダの車を運転して来てくれ」

 あれは妻を騙すために買った車だ。その妻の名前は何と言ったっけ?

 「そうだ、あの嫁の名前は何といったか?」

 結城理仁は結婚証明書類を取り出して確認するのも面倒くさかったのだ。いや、あれはおばあさんに見せた時に手渡したままだった。どのみち彼は、あの書類を持っていなかった。

 ボディーガード「......若奥様のお名前は内海唯花様です。今年二十五歳だそうです。若旦那様覚えていてくださいね」

 彼らの坊ちゃんの記憶力は特に優れていたのだが、覚えたくない人の名前はどうやっても覚えられないようだった。

 特に女性は毎日会っていて坊ちゃんは誰が誰なのか覚えられないだろう。

 「ああ、わかった」

 結城理仁は一声言った。

 ボディーガードは彼のその話しぶりから、次も新しく来た嫁の名前を覚えていないだろうことが読み取れた。

 結城理仁は内海唯花のことを考えるのはここまでにして、椅子にもたれかかり、目を閉じてリラックスして体と心を休めることにした。

 スカイロイヤルホテル東京からトキワ・フラワーガーデンまでは十分ほどだった。

 高級車はトキワ・フラワーガーデンの入口で止め、結城理仁は自らあのホンダ車を運転して自分の家まで運転していった。

 新妻の名前は覚えられないくせに、自分が買った家は覚えられるのだ。

 すぐに自分の家の玄関に着いた。ドアの外に見慣れた自分のスリッパを見つけた。これは彼のスリッパじゃないか?

 どうして外に出されている?

 当然内海唯花の仕業に決まっている!

 結城理仁の目つきは冷たくなり、整った顔がこわばった。本来はあの祖母を助けてくれた女性にとても感謝していたのだが、祖母が彼女をベタ褒めし、彼と結婚するように仕向けられて彼は内海唯花に対して好感はなくしてしまっていた。

 内海唯花の腹の内は分からないと思っていた。

 最終的にはおばあさんの言うとおりに内海唯花と結婚したわけだが、おばあさんにはこう伝えてある。結婚した後は彼の正体は隠したまま、内海唯花の人柄を観察し、内海唯花が結婚するに値する人物であるなら、本当の夫婦として一生を共にすると。

 もし彼が内海唯花が何かを企んでいるような腹黒女であると判断したなら、彼は容赦しないと。

 結城理仁側の人間をはめようとするのなら、思い知らせてやるぞ!

 結城理仁は鍵を取り出しドアを開けようとしたが、あの女が内側からドアロックをかけていて開けようにも開けられなかった。彼の心は不満が大爆発した。

 これは彼の家だぞ!

 彼女が中に住み、彼は外に追い出された!

 結城理仁は怒りが頭に達すると足で玄関のドアをドンドンと何度も大きな音を出して蹴った。

 それと同時に内海唯花にLINE電話をかけた。

 前科があるため彼は内海唯花の名前をちゃんとLINEに登録しておいた。しかもわざわざ『妻』と書き加えていた。そうじゃないと彼はすぐに内海唯花が一体誰だったのか忘れてしまい、またLINEから彼女を削除してしまうからだ。

 結城理仁がドアを蹴っていると内海唯花はその音に起こされた。

 こんな夜更けに一体誰がドアを叩いているのだろうか?ゆっくり寝させてくれないの?

 内海唯花の寝起きは特に悪かった。誰かから起こされようものならどうなるか、それは言うまでもないだろう。彼女は布団をめくり、パジャマのまま怒って部屋を出た。

 携帯は部屋に置きっぱなしで、結城理仁から電話が来ていることに気づいていなかった。

 「誰ですか、こんな夜中にうちに何の用です?」

 内海唯花はドアを開ける時に、ドアの前に立っている男に文句を言った。そこに立ってるのが誰なのかはっきりとわかった瞬間、彼女はぎょっとした。結城理仁をしばらく見つめてやっと反応できた。急いで笑顔を作り、ばつが悪そうに言った。「結城さん、あなただったんですね」

 結城理仁がLINE電話をかけても彼女は出ず、怒りは頂点に達していた。

 この時、彼は内海唯花を相手する気もなく、暗い顔つきで唯花を無視して部屋の中に入っていった。

 内海唯花はこっそりと舌を出してあっかんべーをした。

 これがスピード結婚の後遺症だ。

 顔を外に出して結城理仁がさっき大きな音でドアを叩いたものだから様子を伺ってみたが、幸いに隣人は起きていないようだった。内海唯花は腰をかがめて外に置いてあったあのスリッパを家の中に戻し、ドアを閉めてまたドアロックをかけた。

 「私が帰ってきた時はもう夜更けで家に誰もいなかったから、あなたは今晩帰ってこないかと思ってドアロックをかけたんです」

 内海唯花は説明した。

 「女一人で家にいるから、安全のためにあなたのスリッパを玄関の外に置いておいたんです。そうすれば家には男性がいるとすぐわかって何もできないでしょう」

 彼女は空手を習ったことがあり、ちょっとした相手なら目にも入らないが、家の安全のためには彼女の行いは正しいものだった。

 結城理仁はソファに腰掛け、あの暗い目で彼女をじっと見つめていた。その目つきは鋭く冷たかった。

 十月の夜は少し涼しかった。彼にこのように睨みつけられて内海唯花は涼しいを通り越して冬の寒さを感じた。寒っ!

 「結城さん、すみません」

 内海唯花は彼のスリッパを持ってきて、彼の足元に置き謝った。

 彼女は彼に電話をして帰ってくるのか聞くべきだった。

 しばらくして、結城理仁は冷たく言った。「俺は君に俺のことは構わなくていいと言ったが、これは俺の家だぞ、俺を追い出して家に入れないとは全く気に食わないな」

 「結城さん、本当にすみませんでした。次はあなたが帰ってくるか電話して聞きますから。帰らないならドアロックをかけます」

 結城理仁は少し黙ってから口を開いた。「俺が出張の時は君に伝えておく。何も言わなければ毎日ここに帰ってくる。電話はしなくていい、俺は仕事が忙しい、君のつまらない電話を取る暇さえないんだ」

 内海唯花は「あ」と一声出した。

 彼がそう言ったらそうなのだ。

 この家は彼のものだ。

 彼がこの家のボスだ。

 「結城さん、何か夜食でも食べますか?」

 内海唯花は彼が今やっと帰ってきたことを思い出し、お腹が空いているだろうと思って、よかれと思って彼に尋ねた。

 「俺は夜食なんか食べない。太るからな」
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